失ったもの、得つつあるもの

夜でも暖かくなりつつある見滝原市で、暁美ほむらは最近偽街の子供達と過ごす事が多くなった。
新しい異形の肉体は自分の精神に馴染みつつあったが、日常生活を営む中で通常沸き起こるはずの喜怒哀楽の感情は、未だ完全な回復をみせてはいない。
時間遡行による心の破壊はほむらにそれほど深刻なダメージを与えていたのである。偽街の子供達の人の言葉でない囀りは、そうしたほむらの状況に実によくフィットした。

「うまく行かないものね。」
こうした時、ほむらは実は美樹さやかの事を想い出すのである。
異界の記憶を持ったまま日常を生きていく中で、人間らしい感情を享受できるのはさやかであって自分ではない。
ほむらはさやかを羨ましいとさえ想ったが、それを言葉にする事は自分自身が赦さなかった。

「失くしたものを数えましょう。そしてそれがどれほど輝かしかったかと悔いましょう。」とネクラが云う。
それに呼応するように「もやもやしたまま眠りましょう。何も語らずどうぞこのまま。」とオクビョウが云う。

ほむらは強い心でそうした繰り言を寄せ付けず、明日学校でまどかに会ったら喜んでもらえそうなプレゼントがないか、と探していた。
振り返れば自分はいつも同じようにしてきた。
常に「可能性」のみを頼りに。

ふと、ほむらは自分が得たものは「可能性」以外には何も無いことを識ってさすがに自嘲せざるを得なかった。
自分自身の心を失くしてまで、まどかを護る自分であるという可能性に賭け、そして勝利した。しかし、本当に夢見たであろう普通のまどかとの日常は未だ実現された訳ではない。それはほむらにとって「得つつあるもの」つまり再び「可能性」にすぎないのだ。

「随分と神様は意地悪だわ。」
そうは言ったが今のほむらの心は穏やかである。
まだ、まどかへのプレゼントは見つからずほむらは深夜の見滝原の丘を徘徊する。
その様子を震えながらインキュベーターは見つからないように伺っていた。

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