鹿目家からの帰り道

「泊まっていってもいいのよ。女の子一人の夜道は危ないし。」
鹿目詢子は少し心配そうだったが、
「いえ、大丈夫です。こう見えてもいざとなったらすばしっこいんですよ、私。」
とほむらは紅潮した頬をあげて答える。

まどかの部屋でアルバムを見終わったほむらは、自分に沸き起こった激しい感情の奔流に少なからず動揺し、そろそろ限界が近づいていると感じたのである。
あまりに激しい感情は、ほむらが少女の姿を保っていることの障害にも成りかねず、自分が本性を顕したなら文字通り「何をしでかすのかわからない」という懸念もあったので、ここで帰るという選択は実に賢明なほむららしい選択といえる。

「では、今日はご馳走様でした。」
ほむらはゆっくりと、そして深々と玄関でお辞儀をする。
「ほむらちゃん、またあした。学校で。」
まどかが手を小さく振っているのに笑って応えて、鹿目家のドアを閉めた。

ほむらは数十メートルを歩き、辺りに人気がない小道に入るともう一度慎重に後ろを振り返った。
誰もいないことを確認したほむらは、まったく何の前触れもなくあの漆黒の姿となって翼を広げた。
近くにいた野良猫が驚いて、茂みにその身を隠すために走り出したが、ほむらは気にも留めずそのまま空に飛び立った。

春先の見滝原市のまだ少し冷たい夜の空気が、身体の火照りを鎮めるのに心地よい。
ほむらの高揚は、まどかの傍に長い時間いたせいもあるが、それよりもその内面に沸き起こった激しい感情の渦が主な原因である。

悪魔の姿を得てより以来、ほむらの心にはあたかも人間の喜怒哀楽の感情がごちゃ混ぜになったような不可思議な心の様相が到来するのだ。
そもそも通常の人間は、ある状況や出来事に対して特定の感情を発露させるものだが、今の暁美ほむらはそうではない。
心にスイッチが入ると同時に、一気にそれらは「同時に」押し寄せるのである。
魔法少女になる以前徹底して自分の感情を押し殺してきた頃の暁美ほむらから見ると、その心は丁度対極的な在り様である。

少しだけ冷静になったほむらは、見滝原市の上空で鹿目家のある方向を振り返った。
「まったく。本当に罪な子ね。」と悪魔は笑った。

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