私は幸せよ、なぜなら

叛逆の物語は、当初意図した通りのポジションをアニメーション史に刻む事に成功したようである。

しかし、私には
「『今の』暁美ほむらは何を想い、どんな気分で生きているのか?」
という疑問を解きたい、という欲求が湧き上がりどうにも収まりそうにない。

そんな想いに囚われていた私は、ある日古本屋で悪魔を召喚する古文書を見つけた。
いや、古文書の方から「見つけてくれ」と言わんばかりに私の目の前に落ちてきたのだ。

「面妖な事もあるもの」。

早速、古文書を買い求めた私は嬉々としてしかし緊張しながらも、そこに書かれてある厳密な手順のとおり決められた時刻に自分の部屋で魔法陣を描いた。

暁美ほむらにどうしても聞きたかった「あの質問」を胸に。

※※※

「えーと、満たせ満たせ満たして満たせ。。繰り返す事に四度。。いや、五度だっけ?」

私の不器用さはこんな時にもいかんなく発揮され、その手つきもたどたどしいものであったが、燻ぶり続けてきた私の情念が身を結んだのか、やがて魔法陣は発光し、黒い衣装に身を包んだ翼を持つ少女は呆気なく私の目の前に現れた。

※※※

現れた暁美ほむらはこちらを向いて気だるそうに目を閉じていたが、
やがてゆっくりと目を開いて私を見据えた。

そして私を無言のままじっと観察した。
まるで、私のあらゆる過去を数秒で把握しようとしているように。
(いや、どうやら実際その通りだったのだが)

ほむらの直線的な視線にさらされていると、私はますます恐縮し、そしてなんだか「申し訳ない」ような気分になった。
正規の手順を踏んでいるとはいえ、わざわざこんな片田舎までお出向き頂いた事に?
今まで勝手な妄想をこのサイトに書き連ねてきた事に?

※※※

「何の用かしら?あなたの中では、私は襲来したワルプルギスと共に消え去った事になっているはずなのだけれど。」

あわわ。。やっぱりバレてる。。まあそりゃそうーだわな。

「いやあ、あれは年端もいかない少女に『聖なるもの』の重責を押し付けるのはどーなの?っていう気持ちからでして。
私のエゴの部分で、『なんとか普通の少女に戻せんものか』と思ったんですよね。」

「ご不快に思われたのでしたらお詫びします」と付け加えようかと思ったが、それは止めた。

「ふーん。」
そんな私の躊躇いには何の関心も無いかのようにほむらは続ける。
「それで、今日は何の用かしら?」

※※※

「あの、ですね。。お聞きしたい事がありまして。。」

結論を求めるかのようなほむらの口調に私は完全に気圧されていた。
と、同時にあれほど聞きたかった質問を今目の前にいるほむらに直接訊けるのだ、という期待に体の内側のどこかが暴発しそうだった。

「何かしら?私に応えられることなら答えるわよ。」
そして急に聞こえるか聞こえないかわからないほどの小さな声で
「まどかからすべてがはじまっている、という点で私とあなたの根は同じものだから。」
と呟いた。

全てが悟られている、という状況を理解しつつ私はとうとう暁美ほむらに問うたのである。

「あの。。あなたは今幸せですか?」と。

※※※

次の瞬間の暁美ほむらの表情を私は生涯忘れることはないだろう。
彼女は一瞬、虚を突かれたようにポカンとしてそしてそれから高らかに「笑い出した」のである。

その笑いは、今までスクリーンでもブラウン管でも或いはスマートフォンの画面の中でも見る事のなかった笑いである。

呵々大笑という言葉がぴったり当てはまるような笑い方であった。

「あーごめんなさい。ちょっとおかしくって。」
まだ笑い止まないほむらを私は呆然と見守っていた。
彼女はまだ笑っていたが、それでも特有の誠実さで私の問いに応えようとしてくれているようである。

「お答えするわね。私は幸せよ。なぜなら」

※※※

「私は『価値』に行き着いたからよ。鹿目まどかの幸福、が私にとってのそれなのだけれど。」

ひょっとしたら、と私が予期していた言葉をほむらはあっさりと口にした。
そんな私の想念を見抜き、覆いかぶさる様に彼女は続ける。

「ほとんどの人間は結局、世の中の仕組みとやらに屈してどこかで折り合いをつけて忘れてしまうものだけど、ごく少数の人間はそれでも『価値』を求めることを妥協しない。
生涯を終える前にそこに行き着くことこそ私が心の奥底で求めていたことだった。」

「その結果、人ではなくなってしまったとしてもそれは大したことでもないのよ。」

※※※

あまりにも端的で明瞭な回答は私を恍惚の世界に連れて行った。

意識を取り戻すと目の前に暁美ほむらはもう居なかったが、どうやら彼女の私に対する印象はそれほど悪いものではなかったのでは、と思う。

いつか私もあんな風に笑いたい、とそんな事を想った。

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