文化の定義

その日、開いた時間があった私はウチのQBと一緒にDVDを観ることになった。
まあ1シリーズもので全48話の特撮なので、重要な回だけという予定だったが、もう何度目か観ているにもかかわらず結局は日を跨いで全話を観かえすという事を繰り返している。
概ね、QBの執拗なまでのリクエストによってそうなった。

「どうして、この男は死んだ友人との約束を果たそうとするんだい?」
「どうして、この女性は自ら身を引いた上にその後の事まで取り持とうとするんだい?」
「どうして」

その度に私は、一時停止のボタンを押して登場人物の行動の背景にある心模様をインキュベーターに説明しようと試みたが、そもそも感情というものを理解できないこの種族にはそれは実に困難な事なのだ。

私とQBの仮面ライダーキバの鑑賞会は、いつもこんな具合である。
どういう訳かこのシリーズはQBの大のお気に入りであり「人間の不可解さを最も端的に顕す教材」として、わざわざ全巻を取り寄せ彼の故郷の惑星に送ったらしい。

だから、さぞや今回も新たに見出した「人間の不可解さ」の解釈を求めてくるのだと予想していたのだが、今回はやや様子が違った。
時折、疑問に思ったことに出会ったらしい折には、私の方を見て何やら言いたげではあるものの
結局それを飲み込んで、また映像に観入っている。
それはまるで、
「大きな疑問をぶつけるのだから、この程度の質問は些事としよう。」
と自分自身を納得させるかのように。

「はて?どういう訳か今日は静かだな。。しめしめ、今のうちに『輝ける闇』(=真夜)の美しさを堪能するとしよう。」
私は心の中でほくそ笑んだ。

※※※
ストーリーは佳境に入り、今まさにブラッディーローズ(劇中の鍵となるヴァイオリン)が完成間近、というところで、QBは不意に一時停止のボタンを自分で押し、私の方を振り返って積もりに積もったらしい疑問をぶつけてきた。
一体全体、君たちにとって『文化』というのは何なんだい?

ああ、なるほど。。
コイツはそれを聞きたかったのか。

「もっともな質問、だな。個体差というものを持たないお前さん達の種族では『文明』はあっても『文化』なるものは存在しないだろう、と推察していたが。」

「そりゃあそうさ、僕達には必要性も必然性も全くないからね。だからこそ、逆にどうして君達人類にとって『文化』なるものが当然のように存在しているのか?僕はそれが知りたいんだ。」

ふむ。。また厄介な事を。。

「まあ、待て。『文化』と言ってもその意味するところは広い。

1.民族によって異なる食文化や社会の慣習
2.ある時期にだけ限定して流行するポップカルチャーやサブカルチャーと言われるもの
3.ある個人の精神に後々まで影響するような性質をもつ創作物

お前さんの知りたいのは、このうちのどれの事だ?」

「3.だね。」QBは迷わず言うと、一時停止中の画面を指差した。そこには完成間近のブラッディーローズが大映しになっている。

最もはぐらかしにくい選択を提示され、私は追い込まれたが応えない訳にもいかなかった。
そこで、今まで自分が想い着いた中で最も気に入った譬えを用いる事にしたのだ。

「エッチング、を知ってるだろ?」

「それなら僕達の星にもあるよ。主として工業に使われているだけだけどね。確か銅板を使うエッチングは君たちの文化には昔からあるんだよね。あんな使い方をするなんて、僕らの発想にはないけれど。」

「うん。俺は『文化』というのは要するにエッチングにおける触媒の様なものなんじゃないか?と想ってる。
映像や音楽や形、演出や脚本によって人は自分自身が『そもそもどういう存在であったのか?』の手がかりを識るんじゃないかな?
それを識る事を内心強く願うからこそ、この星には『文化』なるものが存在するのだと想う。」

「なるほど。確かに他の個体と意識を共有している僕達にはそんなあやふやな願望は微塵もないからね。」

「うん。お前さん達と人類との違い、についてもっと言えば『文化』とはもっと情緒に基づくもの、だ。そこは激しい感情の世界であり、言ってしまえば『理不尽』な世界、だと。
理において納得するのではなく、理不尽ながらも納得させられてしまう、そんなある意味では狂気の見え隠れするような。。」

「なんだか気が遠くなるね。」
珍しくQBは、彼にしては弱気ともとれる言を口にした。
感情というものを持たない彼の表情に、届かないものに対する憧憬、といった感情を微かに見たような気になったが、それは私の錯覚であったに違いない。

「愛というのもまた理不尽なものだからな。」
私は何となく慰めるような口ぶりで呟くと、Rainy Roseを鼻歌で口ずさみながら一時停止のボタンを押して劇の再生を始めた。

今日のインキュベーターは終日静かであった。

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